ファイナンシャルプランナー(FP)コラム

変動金利は一気に上がる?金利が動く仕組みと2026年以降の住宅ローン防衛戦略
執筆者
住宅購入診断士
住宅FPエキスパート
2級FP技能士
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ゼネラルマネージャー 松井 新吾 が執筆しました。

日本の住宅ローン市場は、2024年のマイナス金利解除という歴史的転換点を経て、2025年末から2026年初頭にかけて本格的な「金利のある世界」へと突入しました。長らく続いた超低金利環境に慣れ親しんだ利用者にとって、現在の金利上昇局面は未知の領域であり、多くの不安を抱かせるものとなっています。
特に、日本の住宅ローン利用者の多くが選択している「変動金利型」は、市場動向によって返済額が変動するため、家計管理における大きな注目点となります。本記事では、変動金利が決定される構造的なメカニズム、2026年現在の最新の経済環境、そして急激な金利上昇から家計を守るための「5年ルール」や「125%ルール」の実態について、専門的な知見に基づき分かりやすく解説します。
1. 変動金利を決定づける構造的メカニズム
変動金利型の住宅ローンは、借入期間中に適用される金利が定期的に見直される仕組みですが、この変動は金融機関が独自に決めているわけではありません。その根底には、日本銀行の金融政策と、それに対する短期金融市場の反応、および各銀行が定める基準指標という連鎖構造が存在しています。
政策金利から短期プライムレートへの連動
住宅ローンの変動金利を理解する上で最も重要な指標は「短期プライムレート(短プラ)」です。短期プライムレートとは、銀行が業績の良い優良企業に対して、1年以内の短期間で融資を行う際に適用する最優遇貸出金利を指します 。この短プラは、日本銀行が決定する「政策金利(無担保コールレート・オーバーナイト物)」と密接に連動しています 。
日本銀行が金融政策決定会合において政策金利の引き上げを決定すると、銀行間の資金調達コストが上昇し、それが短期プライムレートの改定を促します。2025年12月、日本銀行は政策金利を0.50%程度から0.75%程度に引き上げることを決定しました 。この決定を受けて、多くの金融機関は2026年4月に短期プライムレートを引き上げ、それに伴い住宅ローンの「基準金利(店頭表示金利)」も同程度の幅で上昇させることが確実視されています 。
変動金利が利用者の返済額に反映されるまでの標準的な流れは、以下の通りです。
- 第1段階: 日本銀行による政策金利(誘導目標)の引き上げ決定
- 第2段階: 各金融機関による短期プライムレート(短プラ)の改定
- 第3段階: 住宅ローンの基準金利(店頭表示金利)への反映
- 第4段階: 個別契約の適用金利(実行金利)の確定
基準金利と適用金利、そして「優遇幅」の関係
住宅ローンの契約者が実際に支払うのは「適用金利」であり、これは「基準金利 - 優遇幅(引き下げ幅)」という数式で算出されます 。ここで極めて重要なのは、一度契約を締結すると、完済まで「優遇幅」は原則として変わらないという点です。
例えば、基準金利が2.475%、優遇幅が1.8%であれば、適用金利は0.675%となります。日銀の利上げにより基準金利が0.25%上昇して2.725%になった場合、優遇幅の1.8%は維持されるため、適用金利は自動的に0.925%へと上昇します。このように、変動金利の上昇とは「基準金利の上盛分がそのまま適用金利に転嫁される」プロセスを指します。
2. 2026年現在の経済背景と金利上昇の理由
「変動金利は一気に上がるのか」という懸念に対し、2026年初頭の経済情勢を読み解く必要があります。金利上昇は、インフレ率の推移、賃金の動向、そして政府の金融・財政政策という多角的な要因によって進んでいます。
インフレと資金需要の相関
金利とはいわば「お金のレンタル料」です。景気が回復し、物価が上昇すると、企業や個人は投資や消費のために資金を必要とし、資金需要が高まります。需要が高まればその価格である金利も上昇するのが経済の基本原則です 。2025年以降、日本国内では賃上げの進展やサービス価格への転嫁により、緩やかな物価上昇が定着しつつあります。
また、2024年後半の政権交代以降、日本経済においては財政拡張的な志向が強まっており、これが将来のインフレ期待を押し上げ、長期金利(10年国債利回り)に上昇圧力をかけています 。長期金利の上昇はまず固定金利型住宅ローンに反映され、その後、政策金利の引き上げを伴って変動金利へと波及していきます。
2026年1月時点の金利相場
2026年1月現在の各金利タイプの目安となる相場を整理します。
| 金利タイプ | 2026年1月時点の水準 | 傾向 |
|---|---|---|
| 変動金利型 | 0.500% ~ 1.000%程度 | 据え置きが中心だが、4月の改定を待つ状態 |
| 10年固定型 | 1.800% ~ 2.600%程度 | 前月比で大幅上昇傾向 |
| フラット35 | 2.080%程度 | 長期金利急騰を反映し、2%台へ上昇 |
固定金利はすでに上昇の波が訪れていますが、変動金利については「利上げ決定から実際の反映」までにタイムラグがあるため、多くの利用者が影響を実感するのは2026年後半以降になると予測されています。
3. 負担増を緩和する「5年ルール」と「125%ルール」
変動金利の上昇局面において、家計を急激な支出増から守る防波堤として機能するのが「5年ルール」と「125%ルール」です。これらのルールは多くの都市銀行や地方銀行で採用されていますが、その仕組みを正確に理解しておくことが重要です。
5年ルールの仕組み:返済額据え置きの裏側
5年ルールとは、半年に一度の金利見直しによって適用金利が上昇しても、5年間は「毎月の返済額」を変更しないという制度です 。例えば、金利が上がり本来の支払額が増えるべき状況になっても、銀行は5年間、毎月の返済額を維持します。
しかし、これは利息を免除してくれるわけではありません。返済額の中の「内訳」が変化するのです。
- 金利上昇前: 返済額10万円(元金8万円 + 利息2万円)
- 金利上昇後: 返済額10万円(元金7万円 + 利息3万円) このように、利息の支払い割合が増え、その分「元本の減りが遅くなる」仕組みです 。利用者は家計の支出を安定させられる一方で、長期的な返済計画が延びる可能性があるという点に注意が必要です。
125%ルールと「未払利息」のリスク
125%ルールは、5年ごとの返済額見直しに際し、新しい返済額がそれまでの1.25倍(125%)を超えないように制限するルールです 。たとえ金利が大幅に上昇しても、次の5年間の返済額は急激には増えません。
ここで懸念されるのが「未払利息」です。未払利息とは、金利が極端に上昇し、本来支払うべき月々の利息額が、125%ルールで制限された「毎月の返済額」そのものを上回ってしまった場合に発生します。
- 金利上昇により、今月の利息分が大幅に増えたとします。
- しかし、125%ルールにより返済額が一定範囲内に固定されています。
- この場合、返済したお金のすべてが利息に充てられ、元金が減らないだけでなく、不足している利息が「未払利息」として蓄積されます 。 未払利息は、最終返済日に一括して支払う義務が生じることが一般的です。
4. 銀行によるルールの有無と比較
近年、ネット系銀行を中心に、これらの5年ルール・125%ルールを採用しない金融機関が増えています。
| ルールの有無 | メリット | デメリット | 主な該当銀行 |
|---|---|---|---|
| ルールあり | 毎月の支出が一定で、生活設計が立てやすい。 | 元金の減りが遅くなり、未払利息のリスクがある。 | 三菱UFJ、三井住友、みずほ、りそな、auじぶん |
| ルールなし | 元金が計画通りに減り、未払利息の心配がない。 | 金利上昇が即座に返済額に直結し、家計を圧迫する。 | SBI新生、ソニー、PayPay |
ルールがない銀行は、金利変動に対して非常に敏感です。金利が上がれば翌月から返済額が増えるため家計へのインパクトは直接的ですが、「見えない負債(未払利息)」がたまらないという透明性の高さがあります。
5. 金利上昇がもたらす返済負担のシミュレーション
具体的にいくら増えるのかを把握することは、リスク管理の第一歩です。借入金額5,000万円、返済期間35年のケースを想定し、金利上昇の影響を試算します。
0.25%~1.0%上昇時の負担増(5,000万円・35年返済)
市場の予測や政策金利の動向を踏まえたシミュレーション結果です。
| 適用金利 | 毎月の返済額 | 月々の増加額 | 年間の増加額 |
|---|---|---|---|
| 0.500% | 約130,000円 | - | - |
| 0.750% | 約135,000円 | +5,000円 | +6万円 |
| 1.000% | 約141,000円 | +11,000円 | +13.2万円 |
| 1.500% | 約153,000円 | +23,000円 | +27.6万円 |
金利が1%上昇すると、毎月の支払額は約2.3万円増加し、年間では25万円以上の負担増となります 。35年間の総返済額で見れば、利息負担だけで1,000万円以上の差が生じる可能性もあります。特に、返済期間の前半は元金が多く残っているため、金利上昇による利息の増加幅が大きくなりやすい傾向があります。
6. 2026年以降の金利上昇に対する防衛戦略
金利が上がってから慌てるのではなく、あらかじめ上昇を織り込んだ戦略を立てることが大切です。
戦略1:繰り上げ返済による「元金」の早期削減
金利上昇に対する最大の対策は、利息の計算対象となる「元金」そのものを減らすことです。5年ルールによって返済額が据え置かれている間は、家計に一時的なゆとりがあるように感じられますが、この期間こそが繰り上げ返済の重要な時期です。特に「期間短縮型」の繰り上げ返済は、支払う予定だった利息をカットする効果が非常に高いとされています。
戦略2:固定金利への切り替えタイミングの検討
変動金利から固定金利への切り替えは可能ですが、銀行が提示する固定金利は常に先んじて動いています。日銀が利上げを検討し始めた段階で市場の長期金利はすでに上昇しており、ニュースになってから切り替えを検討する頃には、固定金利はすでに高くなっていることが多いです 。もし「将来的に金利がどこまで上がるか不安」という場合は、早めに全期間固定へ切り替える、あるいは変動と固定を組み合わせる「ミックスローン」を活用してリスクを分散させるのも一つの手です。
戦略3:家計の「金利バッファ」の構築
住宅ローンの返済とは別に、金利上昇に備えた「専用の貯蓄」を持つことも有効です。例えば、現在0.6%の変動金利で支払っている場合でも、あえて「金利1.5%」で支払っていると仮定し、その差額分を別口座で積み立てる方法です。この「金利バッファ」があれば、実際に金利が上昇した際の補填に使えるだけでなく、金利が上がらなければそのまま教育資金や老後資金に充てることができます。
結論:変動金利との「正しい付き合い方」
変動金利は「一気に上がる」のでしょうか。その答えは、金融政策の仕組み上、「基準金利は段階的に上がっていくが、返済額はルールの存在により緩やかにしか変わらない」というのが真実です。しかし、この「緩やかさ」こそが、元金の減少を遅らせ、未払利息という見えない負債を蓄積させる可能性を秘めています。
2026年、私たちは四半世紀にわたる超低金利の時代が終わりを告げる場面に立ち会っています。理想の住まいを維持するためには、目先の低金利という恩恵に甘んじることなく、金利が動く仕組みを正しく理解し、主体的にリスクをコントロールする姿勢が求められます。
5年ルールや125%ルールを単なる「救済策」ではなく、あくまで「対策を立てるための猶予期間」として捉えること。そして、その間に家計の見直しや繰り上げ返済などの準備を進めること。この合理的な判断こそが、金利上昇局面において大切な資産と家族の生活を守るための唯一の道であると言えるでしょう。
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