ファイナンシャルプランナー(FP)コラム

住宅購入で注目の「残価設定型住宅ローン」とは?仕組みとメリット・デメリットを解説
執筆者
住宅購入診断士
住宅FPエキスパート
2級FP技能士
お客様の為に何ができるか『全集中』!!
ゼネラルマネージャー 松井 新吾 が執筆しました。

住宅購入を検討する際、資金計画の要となるのが住宅ローンです。近年、新しいタイプの住宅ローンとして注目を集めているのが「残価設定型住宅ローン」という仕組みです。これは、将来の住宅の価値を見越したうえでローン計画を立てるもので、毎月の返済負担を軽減しつつライフスタイルの変化に柔軟に対応できる点が特徴です。本記事では、残価設定型住宅ローンの基本的な仕組みや通常の住宅ローンとの違い、メリット・デメリット、満期時の返済方法の選択肢、そしてどのような人に向いているかについて分かりやすく解説します。
残価設定型住宅ローンとは何か(仕組み)
残価設定型住宅ローンとは、契約時に将来の住宅の売却予想価格である「残価」をあらかじめ設定し、住宅購入価格からその残価分を差し引いた金額のみをローン元本として借り入れる新しいタイプの住宅ローンです。簡単に言えば、将来の住宅価値を担保にローンの一部を最後まで残しておく仕組みであり、その分だけ当初の借入額を抑えられるため月々の返済負担が小さくなるのが特徴です。
この仕組みはもともと自動車の購入で普及している「残価設定ローン(残クレ)」にヒントを得たものです。車のローンでは数年後の下取り価格(残価)を設定し、その分を除いた額でローンを組むことで月々の支払いを軽くし、契約終了時に「新車への乗り換え」「車両の返却」「残価分を支払って買い取る」といった選択肢を持てます。住宅版の残価設定ローンもこれと似ており、一定期間返済を続けた後に残価部分の扱いをどうするか選択肢が用意されている点が大きな特徴です。
具体的には、ローン契約時に将来(一般的に20~25年後)に設定される「残価設定月」を決めておき、それまでは通常の住宅ローンと同様に返済を続けます。残価設定月を迎えた時点で、ローン残高が当初設定した残価と同程度になれば、以降は「返済額軽減オプション」または「買取オプション」という2つのオプションを行使する権利が発生します。返済額軽減オプションとは、その後のローン返済を大幅に減額し、利息のみの支払いなど負担軽減ができる新型リバースモーゲージ方式への切替えを指します。一方、買取オプションとは、その時点のローン残高と同額で住宅を専門機関(一般社団法人移住・住みかえ支援機構、通称JTI)が買い取ってくれる仕組みです。これらのオプションを使わずに、従来どおり最後まで返済を続けてローンを完済することももちろん可能です。
残価設定型住宅ローンの対象となる物件には条件があります。基本的に国が認定する「長期優良住宅」に限られており、JTIと提携する一部のハウスメーカー・工務店が建築した住宅のみが対象です。また、本ローンを扱う金融機関も限定されており、現在は日本住宅ローン、三菱UFJ銀行、楽天銀行などがJTI提携商品を提供しています。したがって利用には物件・金融機関両面での条件を満たす必要がある点に注意が必要です。
通常の住宅ローンとの違い
それでは、残価設定型住宅ローンは通常の住宅ローンと何が違うのでしょうか。大きな違いはローンの設計思想にあります。通常の住宅ローンは「借入額の全額を契約期間内に返済し切る」ことが前提ですが、残価設定型では「将来の住宅価値(残価)を最後に残しておく設計」になっています。つまり借入当初から最後まで全額返すのではなく、一部は終盤まで残しておくため、その分だけ月々の返済額を低く抑えることができます。
返済期間中の違い
通常ローンでは借入額全体に対して元利均等などで返済していくため、毎月の返済額は借入額に応じた金額になります。一方、残価設定型では借入額から残価分を差し引いた額でスタートするため、同じ金利・返済期間なら毎月の返済額がより少なくなるのです。例えば5,000万円の住宅を購入し2,000万円を残価と設定した場合、ローン元本は3,000万円となり、その金額についてのみ利息がかかります。その結果、月々の支払いは通常ローンより軽くなります。
ライフイベントへの対応
通常ローンは一度組むと完済まで条件変更は難しく、途中で返済額を見直したり減額したりする柔軟性が低いのが一般的です。また、子どもの独立後に住み替えたいと思っても、住宅ローンが残っている状態で売却すると残債が残るリスク(オーバーローン)があり、簡単には住み替えできません。しかし残価設定型なら、一定期間返済後に返済額軽減オプションを使って老後の支払い負担を大幅に減らすこともできますし、買取オプションで残債相当額で買い取ってもらえるため売却額不足でローンだけが残るリスクも回避できます。このように、ライフスタイルの変化に合わせて将来の住み替えや住まい方の選択肢を残せる点が通常の住宅ローンとの大きな違いです。
なお、通常ローンでは住宅の価値下落は借主のリスクとなり、市場価格が残債を下回れば売却時に不足分を自腹で清算しなければなりません。しかし残価設定型ではJTIによる残価保証(買取保証)が付いているため、市況悪化で資産価値が下がっても所定の残価で買い取ってもらえる安心感があります。反面、ローン商品としては特殊なオプションが付くぶん金利タイプや利用条件が限定的になる違いもあります(後述のデメリット参照)。
残価設定型住宅ローンのメリット
残価設定型住宅ローンには、以下のようなメリットがあります。
- 毎月の返済額を抑えられる: 前述の通り、借入時に住宅の残価を差し引いた金額でローンを組むため、同じ借入額でも通常の住宅ローンより月々の返済負担が軽減されます。当初の家計負担が軽くなることで、生活費や教育費、老後資金など他の目的に資金を回せる余裕が生まれます。例えば高額な住宅でも残価を設定すれば「家を持つことへのハードルが下がる」効果が期待できます。
- 短期間~将来の住み替えがしやすい: 買取オプションが付いているため、一定期間居住した後に売却してもローン残高と同額で物件を手放すことが可能です。仮に住宅の市場価格が下落していても残債が残らないよう保証されているため、安心して住み替えを検討できます。通常ローンでは売却額が残債に満たないと自己資金で不足分を清算する必要がありますが、残価設定型なら「オーバーローンで身動きが取れない」という事態を避けられ、転勤やライフステージの変化に合わせて柔軟に住まいを選び直すことができます。
- 将来のリスクに備えやすい: 返済期間中に収入が減少した場合や、定年退職後にローン返済が重くなる不安に対しても選択肢を用意できるのがメリットです。例えば、定年前までに残価設定月が来れば返済額軽減オプションによって返済額を利息のみの水準まで下げることができ、年金生活に入っても無理なくマイホームに住み続けられます。あるいは「収入が下がったら売却する」といった極端な判断も、残価保証があるため可能になり、これまで長期の住宅ローンでは難しかった経済状況の変化への対応策を持てる点は安心材料です。
- 資産価値下落のリスク回避: 残価設定型住宅ローンではJTIによる買い取り保証が付随するため、万一将来住宅の資産価値が大きく下がった場合でもローンだけが残るリスクを避けられます。市場環境に左右されず残価での売却が可能なので、「住まなくなった家のローン返済だけ続ける」といった事態を防げるのは大きなメリットです。もっとも、市場で残価以上の高値で売却できる場合はそちらを選ぶこともでき、損をしないよう柔軟に判断できます。
このように残価設定型住宅ローンは毎月の負担軽減と将来の選択肢確保という点で、これまでの住宅ローンにないメリットを持っています。にあるように、従来は「役職定年や老後の収入減で返済が苦しくなる」「子育て後に簡単に住み替えできない」といった課題がありましたが、残価設定型ローンはそうした不安を商品設計の段階で織り込み、ライフイベントに対応しやすくしているのです。
残価設定型住宅ローンのデメリット
一方で、残価設定型住宅ローンには次のようなデメリットや注意点もあります。
- ローン期間終了後に大きな支払いが控えている: 月々の返済は軽くできても、ローン満期時(残価設定月以降)には必ず何らかの形で残価部分を精算する必要がある点は最大の注意点です。たとえば契約満了時にマイホームに住み続けたいなら、残価相当分を一括返済して住宅を自分のものとして買い取らなければなりません。また残価分を新たにローンで借り直す場合やリバースモーゲージに移行する場合は、結局返済期間が延びて支払いが続くことになります。いずれにせよ将来まとまった資金を用意する必要があるため、月々の負担が軽いからといって安心せず、満期時に向けた資金計画をあらかじめ考えておくことが重要です。
- 総支払額が増える可能性が高い: 残価部分を後回しにすることで、トータルでは通常のローンより費用がかさむケースがあります。理由の一つはローン期間が長期化しやすいことです。例えば当初35年ローンで組んだ後、残価分についてさらに延長して返済を続ければ、その間も利息を払い続けるため支払総額は通常ローンより多くなってしまいます。実際、「期間が長くなる分、金利支払期間も増えるため、生涯この家に住み続けるつもりなら普通の住宅ローンの方がトータルで得な場合もある」と指摘されています。また、返済額軽減オプションで利息のみ払い続ける期間が長くなると、その分も総支払額増加につながります。長期間で見れば通常ローンより割高になる可能性がある点は認識しておきましょう。
- 適用金利が割高になる場合がある: 残価設定型住宅ローンは特別なオプション付き商品であるため、金融機関によっては通常より高めの金利設定となっています。例えば三菱UFJ銀行の残価設定型住宅ローンでは、通常の住宅ローン金利に年0.2%上乗せした金利が適用されるケースがあります。金利が0.2%違うと、借入額3,000万円・20年返済の場合で月々約3,000円の返済額差になるとの試算もあります。このように金利負担が大きくなる可能性があり、低金利が魅力の通常ローンと比較するとコスト面で見劣りする点には注意が必要です。また、JTIへの手数料(利用時に5.5万円程度)など付随費用もかかるため、総合的な費用負担は事前によく確認することが大切です。
- 利用できる住宅や金融機関が限られる: 前述のように、残価設定型ローンは誰もがどんな物件でも利用できるわけではありません。長期優良住宅に認定された戸建てなど条件を満たす住宅でないと利用できず、また提携する限られた金融機関でしか取り扱いがないのが現状です。そのため、「気に入ったマンションで残価設定ローンを使いたい」と思っても適用できない場合が多い点には留意しましょう。制度自体は国が普及を後押ししており今後取扱い事例は増える見込みですが、少なくとも現時点では利用ハードルがやや高い商品であることを理解しておく必要があります。
- 住宅の維持管理にコストがかかる: 残価設定型ローンを利用する住宅は長期にわたり良好な状態を保つことが求められます。長期優良住宅として定期的な点検・メンテナンスが義務付けられている物件も多く、その維持費用や手間は通常の住宅以上にかかる可能性があります。将来の資産価値を守るためのコストも念頭に置いて、メリットと天秤にかけることが大切です。
以上のように、残価設定型住宅ローンはメリットばかりではなく将来の負担や制約も伴う商品です。がまとめているように、「月々の負担軽減や住み替えのしやすさ」というメリットの裏側には、「金利負担・総支払額増加」や「完済後も自己資金が必要」といったデメリットも存在します。利用を検討する際は長期的な視点で損得やリスクを十分比較検討することが重要です。
ローン満期時に選べる返済方法の選択肢
残価設定型住宅ローンでは、ローン期間終了(残価設定月)時に以下のような返済方法の選択肢があります。自分の状況や希望に合わせて、残った残価部分をどのように処理するか決めることができます。
- そのまま返済を続ける: 残価設定月以降もオプションを行使せず、当初の契約期間を延長して引き続きローン返済を続ける方法です。元のローンを完済するまで返済期間を延ばす形になります。手段としてはシンプルですが、返済期間が長期化するぶん総支払額が増える点に注意が必要です。
- 残価分を一括返済(買い取り)する: 満期時に自己資金や退職金等で残価相当額を一括返済し、そのまま住宅を自分のものとして保有し続ける方法です。ローンをすべて清算する形になるため以後の返済負担はなくなりますが、その分まとまった資金が必要になります。老後も愛着あるマイホームに住み続けたい人は、この方法に備えて計画的に資金準備をしておくと良いでしょう。
- 住宅を売却して完済する: 残価設定月以降に住宅を売却し、その売却代金でローン残高(残価)を完済する方法です。JTIの買取オプションを行使すれば残高と同額で買い取ってもらえるため、不動産市場の動向に関わらず確実にローンをゼロにできます。また、市場価格が残価を上回るようであれば通常どおり仲介で売却し、ローン返済後に利益を得ることも可能です。売却後は賃貸住宅に移る、新たな家を購入するといった選択が取れます。
- 残価分のローンを組み直す(再ローン): 残価部分について新たに住宅ローンを組み直す方法です。例えばローン期間を延長し、80歳程度までの期間で残価分を返済するプランに変更できます。実質的に返済期間を延ばすことで月々の負担増加を避けられますが、その分支払いが長引き総額は増えます。高齢までローンを抱えることになる点も踏まえ、無理のない範囲で計画する必要があります。
- リバースモーゲージ型ローンに借り換える: 自宅を担保に、亡くなるまで利息のみ支払い、死亡時に物件処分で残債返済という仕組みのリバースモーゲージローンに切り替える方法です。この場合、残価分の返済は生涯にわたり元本据置(亡くなるまで元金は減らず利息だけ支払う)となり、最終的に自宅を手放す代わりに残債を清算します。月々の返済額は大幅に減り老後資金にゆとりが生まれる一方、自宅は最終的に処分されるため子孫に残せなくなる点には留意が必要です。
以上のように、残価設定型住宅ローンでは満期時に複数の選択肢が用意されています。自宅に住み続けたいかどうか、手元資金の状況、家族構成(相続)などによって最適な選択は異なります。将来のライフプランに照らしてどの道を取るか、事前にシミュレーションしておくことが大切です。
残価設定型住宅ローンはどんな人に向いているのか
メリット・デメリットを踏まえると、残価設定型住宅ローンは万人に適したローンではなく、向き・不向きがあります。以下に、このローンに向いている人の代表的な特徴を挙げます。
- ライフスタイルに合わせて柔軟に住まいを選びたい人: 将来的に転勤やライフステージの変化で住み替えを検討する可能性がある人、あるいは「とりあえず今はマイホームに住みたいがずっと同じ家に固執するつもりはない」という人に向いています。残価設定型ローンは持ち家でありながら賃貸のような柔軟性を持てるのが魅力です。自分好みにリフォームしつつ、必要に応じて家を手放して別の住まいに移れるため、持ち家の良さと賃貸の気軽さを両取りしたい人に適しています。
- 将来家を相続させる人がおらず処分を考えている人: 子供など相続人がいない、あるいは「自分が亡くなった後に家を引き継ぐ人がいない・必要ない」という場合にも残価設定型ローンは有効です。ローン期間終了時にJTIが残価で買い取ってくれるため、最終的に自宅を処分してローンを完済することが容易にできます。亡くなった後に住宅ローンの残債や空き家が相続人の負担になる心配もなく、老後は終身でマイホームに住み続けて、最終的には売却処分して清算するという計画が立てられます。このため「自分の代で住宅を終わらせたい」「子どもに資産として家を残さなくても良い」という人に適した選択と言えるでしょう。
- 定年後の住宅ローン負担に不安がある人: 住宅ローンを借りる年齢が上がっている現在、定年退職後も返済が残るケースは少なくありません。残価設定型ローンはそうした老後の返済負担を軽減したい人にも向いています。月々の支払いを抑えつつ、収入が年金のみになる高齢期には返済額軽減オプションで利息程度の負担に抑えることが可能だからです。例えば35年ローンを40歳で組めば75歳前後まで返済が続く計算ですが、残価設定型ならリタイア後に支出をグッと減らし、年金生活でも無理のない返済ができるよう設計できます。将来の収入減少を見越して安全策を講じたい人にフィットするでしょう。
逆に言えば、「必ず最後までローンを完済して家を自分のものにしたい」「一生この家に住み続けるつもりだ」という人は、残価設定型ではなく通常の住宅ローンの方が向いている場合もあります。残価設定型ローンは将来の計画が変わる可能性がある人やライフイベントに備えたい人に適した商品であり、将来的な不確実性が少ない人にとっては余計なオプションとなりかねません。自分の価値観や将来設計に照らして、最適なローン商品を選ぶことが重要です。
まとめ
「残価設定型住宅ローン」は、毎月の返済負担を軽減しつつ将来の住み替えや老後の対策といった“出口戦略”をあらかじめ組み込める新しい住宅ローンの選択肢です。政府の後押しもあり導入事例は徐々に増えており、今後住宅購入を考える上で知っておきたい仕組みと言えます。メリットである「支払いの身軽さ」と「選択肢の広さ」は魅力的ですが、その反面、将来に残る支払い義務や金利負担増加といったデメリットも存在します。利用できる条件も限られるため、興味がある方は住宅メーカーや金融機関に相談し、最新の情報を確認すると良いでしょう。
大切なのは、このローンの仕組みを正しく理解し、自分のライフプランに合うかどうかを見極めることです。で述べられているように、残価設定型住宅ローンを賢く活用するには将来まで見据えた計画と正しい知識が欠かせません。住宅購入は人生の大きなイベントです。メリット・デメリットを踏まえながら、自分にとって最適な住宅ローンの形を選んでいきましょう。
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